自治会や町内会などのボランティア組織で「ICT化」を進める際、技術的なハードル以上に立ちはだかるのが「回線契約の名義」と「経理の清算・管理」という現実的なガバナンスの問題です。今回、自治会館のネットワーク環境を刷新するにあたり、「現場の手間ゼロ」「ローカルLANの常時稼働」を実現しつつ、組織としての契約・清算フローまでを落とし込んだシステムを構築しました。
コンセプト:「データ購入」と「現場のLAN環境」を完全に分離する
当初設計したスマホのテザリング運用では、「町内会専用のスマホ」に回線とアクセスポイント(AP)の両方を兼任させていました。これではスマホの使い方がわかっている人がいないと、いくらオープンにしてても自治会館施設のネットワークに接続された機器は利用できません。かといってオープンにしてしまうと悪用のリスクも高まります。「誰でも簡単利用」と「安全に利用」両立は本当に難しいです。
そこで、ネットワークの中心にRaspberry Piを据え、ローカル環境(LAN)と外部インターネット(WAN)を明確に分離しました。
- 平常時(Povoトッピングなし・128kbps): Raspberry PiのAPにより、館内のモニターへの無線投影やプリンター印刷は常時・無料で利用可能。ネット接続が必要ない日常業務はすべてローカル完結。
- 必要時(オンデマンド課金): Web会議や大容量データのダウンロードが必要な時だけ、外部回線を通してインターネットへ接続。
これにより、「回線代の負担」と「機材の接続」の分離がなされ、現場の機器設定を変更することなく、回線をブラックボックスに閉じ込めることで、柔軟なネットワーク運用ができる準備ができました。
続いては、スマホによるテザリングをやめて、PovoをドコモのWi-Fiルーター「home 5G HR01」に装着しました。オンデマンド課金にスマホの多要素認証を利用しインターネット通信はWi-Fiルーターで、いわゆる「お家Wi-Fi」を構築しました。

なぜドコモ「home 5G HR01」なのか?
自治会館(普段は無人)据え置くWi-Fiルーターとして、新モデルのHR02ではなく、あえて旧モデルのHR01を選定しました。理由は明確です。
- バッテリーレスによる火災・劣化リスクの排除 モバイルルーター(MR05NL等)の24時間通電運用は、リチウムイオンバッテリーの膨張・発火リスクが付きまといます。コンセント給電専用のホームルーター化は無人環境の鉄則です。
- au回線(povo2.0)との相性(Band 28対応) HR02では仕様から削られてしまったauの重要な周波数帯「Band 28」に、HR01は対応しています。ドコモ系SIMだけでなく、povo2.0を挿した際も障害物に強い電波を捉えやすいメリットがあります。
- 物価高・需要を踏まえても圧倒的なコスパ 状態の良い(箱付き・ACアダプター付き)美品が比較的安価に入手できます。Docomoと謳っていますが、実はSIMフリーで5Gにも対応しているのでコスパ最強です。
SIMを入れれば動くという代物ではありませんが、幸いにもインターネットには情報がわんさとあります。簡単な設定であっさりとインターネットに繋がります。
WPSボタンを物理ガードする「泥臭い安全管理」
家庭用ルーターであるHR01は、初心者への親切設計として「WPSボタン」が搭載されており、設定画面から無効化することができません。これでは「誰でもボタン一発で不正接続できるセキュリティホール」になってしまいます。そこで、「プラスチック板を使ってWPSボタンを物理的に押し込めないようガード」を施しました。
非常に簡易的な対策ですが、公共スペースにおいては「視覚的な手出しにくさ(心理的抑制効果)」が極めて有効に機能します。もちろん裏では、Raspberry Pi側での接続ログ取得と回線ダッシュボードでの定期観測を心がけています。とはいえPovoで運用していますので、あまり注力する必要がないと判断して、この様な工作レベルでの対応としました。
本当はWPSのON/OFFは必須で組み込んで欲しいのですが、ねぇ…

建替精算(povo)から組織口座清算(BIGLOBE)への切り替え
小規模組織における回線運用の最大の難所が「お金の清算フロー」です。ここには個人契約と組織契約の明確な違いが存在します。
【今は検証期】povo2.0による柔軟な立替運用と「自動解約保険」
povo2.0は基本料0円で「使いたい時だけ買える」ため非常に優れていますが、原則個人契約となります。 そのため、事前に自治会側と同意形成を行った上で、「トッピング購入時の領収書をもって自治会へ経費精算(立替)」という形で実証実験を行いました。
また、povo2.0の「180日間トッピングがない場合の自動解約」という仕様は、万が一管理者が不明になった際にも「誰かが手続きしなくても勝手に契約が消滅してくれる自動保険」として機能する点も自治会側に共有し、リスク管理としての理解を得ました。
【本格運用】「自治会口座清算(BIGLOBEモバイル)」へ移行
今回のHR01×Raspberry Piによるネットワーク構築の成果と安全性を共有し、継続して運用する事で運用予算が明確になってきました。予算が明確になってくれば「自治会口座清算(BIGLOBEモバイル)」への道筋も見えてきます。
※コラム:自治会におけるBIGLOBEモバイルのリアル BIGLOBEモバイルは「自治会・町内会でも契約できる」を謳っていますが、実際の入会審査は書類ベースでかなりアナログかつ厳格です。民間企業のような融通は利かず、開設までのハードルは決して低くありません。 しかし、「自治会名義の銀行口座から直接引き落とせる」という一点において、個人立替を排除し経理の透明性を保つ上での強みがあります。
今後の展望
今後はこのネットワークを基盤として、例えば、AnkerのEufyシリーズ等を用いた防犯カメラの導入を検討できたらいいなと考えています。クラウドに常時映像を送信するのではなく、館内のストレージ(HomeBase等)にローカル録画し、異常時の確認や映像の吸い上げ時のみ通信を行って遠隔アクセスする。この構成であれば、月額のクラウド利用料をかけることなく、基本料0円ベースのセキュリティシステムへ拡張可能です。
まとめ
家庭用機材(HR01)、手持ちの技術(Raspberry Pi)、そして泥臭い工夫(WPS物理ガード)。これらを組み合わることで、予算をかけずとも、運用に則した高品質なローカルNWが作れます。
そして何より重要なのは、「通信を安心安全そして安価に利用する仕組みを構築する」事です。同じような自治会・町内会運営の課題を抱えている方の参考になれば幸いです。



コメント